組織全体を透明化する技術の開発は、組織観察の常識を超える技術の発明でした。理化学研究所のグループが樹立したSca/e(1)やウイーン大学が発明した3DISCO(2)は世の中に透明化試薬を知らしめるきっかけとなった報告例です。マウス全脳の組織を特定の試薬に浸け込むことで丸ごと透明化し、組織全体の蛍光イメージングを成功させた事例は神経科学分野に鮮烈な印象を与えました。

このような透明化手法は、組織と溶液間の光の屈折率を同程度に調節することで視覚的に透明に見せています。このことから屈折率を調整した溶液の組織への浸潤が組織の透明度に深く関与していると考えられます。その組織の透明度を最大限確保できる可能性を見せているのが、2013年スタンフォード大学のグループが開発したCLARITY(3)と呼ばれる透明化手法です。




電気泳動法による脱脂

(CLARITY)

組織と溶液の屈折率を調整

(透明化試薬)


作成日 2017/06/25

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透明化組織の新しい染色アプローチ
組織の染色には数10 µmの厚さにスライスした切片を用いることが一般的です。これは染色に使用する抗体が組織深部へアクセスすることが困難なため、薄くスライスした切片標本が必要になります。 そのため、顕微鏡で撮像する際は染色した切片画像をつなぎ合わせる作業が必要です。 透明化標本の場合、特にCLARITYなどの脱脂を伴う方法で作成したサンプルは、スライスをせず全組織のまま抗体を深部までアクセスすることが可能になりますが、通常の浸漬法では抗体を深部まで染めるのに数週間ほどかかります。 この時間を短縮するために、電気泳動法を用いて抗体を物理的な拡散で組織深部へ移動させる方法が開発され(1)、同年にCell誌で全組織を抗体染色する新しいアプローチとして、「Switch」法が発表されました。 このSwitch法は、抗体をラベリングする際にOFFとONの2つの溶液を使用することがポイントです。 OFF溶液:低pHかつSDSを含む ON溶液:中pHでSDSを含まない OFF溶液は低pHかつSDSを含む溶液に調製されており、抗体が組織へアクセスしても標的抗原には結合しません。 このOFFステップで組織内へ均一に抗体を分布させた後、ON溶液に切り替えることで組織内へ浸潤した抗体が抗原と結合します。 この2つのステップを介することで、抗体の染色ムラを抑え、均一なラベリングを行なうことができます。 このSwitch法と電気泳動の高速免染を掛け合わせたのが、SmartLabel高速免疫染色システムになります。