1、ハイドロゲルモノマーの組織への浸潤

CLARITY法では、前処理として、組織内部のタンパク質や核酸分布の保持のためにアクリルアミドベースのハイドロゲル溶液を使用します。

ハイドロゲルモノマー溶液4%PFA, 4%アクリルアミド,0.25% VA-044(重合開始剤,Wako)

上記の溶液を動物の灌流固定の際に使用します。組織内部のタンパク質をアクリルアミドとPFAとで共有結合します(Fig. 1)。PFAがタンパク質とアクリルアミドをアルデヒド結合で架橋します。



Fig. 1 組織のハイドロゲルの浸潤と化学結合



2、アクリルアミドベースによる組織内部のタンパク質固定

ハイドロゲルモノマー溶液に漬け込んだ組織の温度を37℃まで上昇させて組織内部のタンパク質等を固定するために重合させます。これによってアクリルアミド重合によって形成された網目構造にタンパク質が強固に固定されます(Fig. 2)。通常のホルマリン固定と比べ、タンパク質が強く保持されているため、後の分子ラベリング技術へ応用できます。



Fig. 2 ハイドロゲル重合による組織内部のタンパク質固定



3、SDS-PAGEを利用する組織透明化

ハイドロゲルモノマー溶液を使用して固定化させた組織(ゲル化組織)をSDS-PAGEの原理を利用して脱脂を行ないます。通常、SDS-PAGEであればタンパク質等も移動してしまいますが、ゲル化によってタンパク質は保持され、SDSのミセルによって細胞膜や脂肪由来の脂質だけが洗浄されます(Fig. 3)。脂肪成分が除去された組織は本来の色味を失い、透明な組織へ生まれ変わります。さらに組織の屈折率に合わせた高屈折率試薬に浸潤させれば、より透明度の高いクリアな組織が完成します。



Fig. 3 SDSミセルによる組織の脂質洗浄


作成日 2017/06/25

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透明化組織の新しい染色アプローチ
組織の染色には数10 µmの厚さにスライスした切片を用いることが一般的です。これは染色に使用する抗体が組織深部へアクセスすることが困難なため、薄くスライスした切片標本が必要になります。 そのため、顕微鏡で撮像する際は染色した切片画像をつなぎ合わせる作業が必要です。 透明化標本の場合、特にCLARITYなどの脱脂を伴う方法で作成したサンプルは、スライスをせず全組織のまま抗体を深部までアクセスすることが可能になりますが、通常の浸漬法では抗体を深部まで染めるのに数週間ほどかかります。 この時間を短縮するために、電気泳動法を用いて抗体を物理的な拡散で組織深部へ移動させる方法が開発され(1)、同年にCell誌で全組織を抗体染色する新しいアプローチとして、「Switch」法が発表されました。 このSwitch法は、抗体をラベリングする際にOFFとONの2つの溶液を使用することがポイントです。 OFF溶液:低pHかつSDSを含む ON溶液:中pHでSDSを含まない OFF溶液は低pHかつSDSを含む溶液に調製されており、抗体が組織へアクセスしても標的抗原には結合しません。 このOFFステップで組織内へ均一に抗体を分布させた後、ON溶液に切り替えることで組織内へ浸潤した抗体が抗原と結合します。 この2つのステップを介することで、抗体の染色ムラを抑え、均一なラベリングを行なうことができます。 このSwitch法と電気泳動の高速免染を掛け合わせたのが、SmartLabel高速免疫染色システムになります。