電気泳動法を利用する免疫染色 eFLASH
 

eFLASH法は、電気泳動を活用した組織免疫染色方法です。この電気泳動を活用する事例として、CLARITY組織透明化技術があります。CLARITY法では、SDSの電気泳動を組織全体に施すことによって、組織内の脱脂を強力に行なうことができます。これは陰イオン性界面活性剤であるSDSが脂質の周りに吸着し、ミセルを形成すると、電気泳動によってプラス方向に移動する仕組みを利用しています。

eFLASH法では、この電気泳動で大分子である抗体を組織の深部へ高速にアクセスすることができます。この方法では陰イオン性界面活性剤として、NaDC (Sodium Deoxycholate) を利用しています。NaDCはpHによって抗体との親和性が変化することが知られています。そのため、電気泳動によってもたらされる溶液のpH変化を利用することによって、抗体の組織中の抗原の反応性を制御することが可能です。この現象を利用して組織の抗体染色を均一かつ高速に行なうシステムがSmartLabelです。

〇NaDCの特長

  • 高pH (pH~10)では、抗体と強くNaDCが吸着するため、抗原抗体反応を抑制する
  • 中pH (pH~8)では、抗体とNaDCの結びつきが弱まるため、抗原抗体反応が起こるようになる
電気泳動の初期では、NaDCを含む反応溶液はpH10付近に維持されています。そのため、抗体は電気泳動によって組織の内部に拡散はされますが、抗原に結合しません。電気泳動時間に依存して、バッファーのpHが下がると、抗体が抗原と反応するようになります。このようなメカニズムを利用することで、組織全体に均一に抗体を分散させることが可能になりました。

Yun et al (2019) bioRxivの論文から抜粋


作成日 2020/07/29

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透明化組織の新しい染色アプローチ
組織の染色には数10 µmの厚さにスライスした切片を用いることが一般的です。これは染色に使用する抗体が組織深部へアクセスすることが困難なため、薄くスライスした切片標本が必要になります。 そのため、顕微鏡で撮像する際は染色した切片画像をつなぎ合わせる作業が必要です。 透明化標本の場合、特にCLARITYなどの脱脂を伴う方法で作成したサンプルは、スライスをせず全組織のまま抗体を深部までアクセスすることが可能になりますが、通常の浸漬法では抗体を深部まで染めるのに数週間ほどかかります。 この時間を短縮するために、電気泳動法を用いて抗体を物理的な拡散で組織深部へ移動させる方法が開発され(1)、同年にCell誌で全組織を抗体染色する新しいアプローチとして、「Switch」法が発表されました。 このSwitch法は、抗体をラベリングする際にOFFとONの2つの溶液を使用することがポイントです。 OFF溶液:低pHかつSDSを含む ON溶液:中pHでSDSを含まない OFF溶液は低pHかつSDSを含む溶液に調製されており、抗体が組織へアクセスしても標的抗原には結合しません。 このOFFステップで組織内へ均一に抗体を分布させた後、ON溶液に切り替えることで組織内へ浸潤した抗体が抗原と結合します。 この2つのステップを介することで、抗体の染色ムラを抑え、均一なラベリングを行なうことができます。 このSwitch法と電気泳動の高速免染を掛け合わせたのが、SmartLabel高速免疫染色システムになります。