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近年ではASAP4(スタンフォード大開発)、JEDI-2D(ベイラー医科大学開発)に代表されるGEVI(Genetically Encoded Voltage Indicator)を活用した膜電位イメージングの需要が急速に高まり、またGCaMPに代表されるGECI(Genetically Encoded Calcium Indicator)も高速応答化が進んでおり、通常の多光子顕微鏡では撮像スピード不足でこれらの蛍光センサーのスペックを活かしきれなくなりました。このような現状を受けて、Brukerは「OptoVolt高速膜電位イメージングモジュール」、「NeuraLeap高速Zフォーカスモジュール」、「NeuraLight 3D Ultra 高速3D光刺激モジュール」を次々と開発し、同社のマルチフォトン顕微鏡Ultima 2P Plusは次世代のマルチフォトン顕微鏡と呼ぶにふさわしい「世界最速」の高速撮像を実現しました。
OptoVolt 高速膜電位イメージングモジュールは独自の非球面マルチレンズアレーを用いたハイスループットスキャニング技術により、1000FPSの撮像を可能としています。下の図はOptoVoltによる高速膜電位イメージングで1個の神経細胞の軸索と細胞体をROIにとり膜電位トレースを抽出したものです。このように膜電位イメ―イングでは細胞外電気生理記録で不可能な発火閾値以下の電位も記録でき、グリア等の膜電位も記録できるため、神経科学研究に新たな知見をもたらします。
NeuraLeap 高速Zフォーカスモジュールは超高速DMD(Digital Micromirror Device)チップと長被写界深度レーザー励起モジュールを内蔵し、撮像面のZ方向移動時間はわずか20µsで、文字通り瞬時のZ軸移動を可能としています。長距離の瞬時移動に対応しており、ワイドモードでは400µmの瞬時移動が可能なので、異なる皮質層間の無遅延マルチプレーンイメージングが可能です。また、被写界深度を150µmまで自由に変えられるので、Zのスイッチング無しで広範囲のニューロンを一度に記録できます。OptoVoltとNeuraLeap - この2つのモジュールの組み合わせでミリセカンドオーダーの3次元膜電位イメージングが可能となります。
NeuraLight 3D Ultra 高速3D光刺激モジュールは3Dレーザーホログラムで3次元的な光刺激のパターンを実現する SLM(Spacial Light Modulator)で、刺激パータンのスイッチング速度は600Hz(1.6ms)とこちらも「世界最速」です。神経発火の生理的な時間分解能にきわめて近い光刺激を行うことが可能です。左記のOptoVolt、NeuraLeapと組み合わせることで、記録した膜電位イメージングの発火パターンでそのまま刺激するような、これまで不可能だった新しいアプローチの実験が行えます。
ETL 液体レンズ遠隔ZフォーカスモジュールはBrukerが特許を取得した独自の液体レンズ(ETL: ElectroTunable Lens)で、電流によりレンズの形状をフレキシブルに変えることで高速にZフォーカス面を移動できます。スイッチング速度は10msで、カルシウムイメージングを行う上では十分なスペックと言えます。また、Z方向の可変レンジが480µmと非常に長いのが特徴です(16x対物レンジ使用時)。広範囲かつ長深度の3次元ボリュームカルシウムイメージングを行うのに適したモジュールです。ETLとNeuraLeapは互いにスワッパブルなモジュールになっていて、共通して遠隔フォーカスが可能なので、ピエゾ等他の技術と異なりZ面の移動時に対物レンズの物理的な移動が起こりません。これはSLMによる光刺激を同時に行う場合に決定的に重要です-なぜならピエゾ等でイメージングのために対物レンズのZが動くと、SLMの3Dホログラムも一緒に動いてしまい、本来刺激したい位置からずれてしまうためです。Ultima 2P PlusはZが動いても3Dホログラムがずれないため、3Dイメージングと3D光刺激を同時に行う上で大変理想的です。
Ultima 2P Plusは一般的な視野数FN18mmよりも50%広い視野数28を
採用しています。これにより離れた距離のニューロン活動のイメージング
およびオプトジェネティクスが可能となり、GCaMP等のカルシウムインジ
ケータを用いた局所回路のファンクショナルイメージングおいて大きな利
点となります。最新のデザインにより全フィールドにおいて一様な空間的
および時間的分解能となっています。
さらにUltima 2P Plusを次世代機として特徴づけるオプションとして、FLIM&PLIM 蛍光寿命イメージングモジュールがございます。通常のマルチフォトン顕微鏡では蛍光の強度を画像化しますが、Ultima 2P PlusはFLIMモジュールを追加することで蛍光分子へのレーザーパルス照射から蛍光が発生するまでの時間(=蛍光寿命)を画像化することが可能となります。蛍光寿命は主に分子の結合状態でで変化するため、タンパク質相互作用や細胞の代謝状態といったパラメータを、マルチフォトン顕微鏡の特性を活かして高解像度で2次元・3次元的に解析できます。
また、りん光寿命イメージング(PLIM)にも対応しており、組織内酸素分
圧イメージング等が可能です。